どうにか新型コロナウイルスの第一波が治まってきました。本当に皆さん、よく頑張られたと思います。「強制」ではなく「お願い」のレベルでここまで自粛して、感染症を抑え込める国なんて、日本ぐらいなんじゃないか・・・って、誇らしくすらなります。

ただ、こういった「頑張った後」というのは、実はメンタルがやられやすい時期なんです。定年退職されたビジネスパーソン、お子さんが自立して子育てから離れたお母さん、入社から緊張の連続で頑張り過ぎた新入社員など、「頑張りから解放された時」は要注意!頑張っている時は確かに疲れているのですが、アドレナリンというホルモンが出て身体の『やる気スイッチ』がオンになっているので何とか乗り切れます。でも、頑張らなくてよくなると、アドレナリンは出なくなりますので、それまで感じていなかった疲労がどっと押し寄せてくる ―― 『荷下ろしうつ病』なんて言われ方をしますが、今は『一億総荷下ろしうつ病』のリスクに晒されていると言っても言い過ぎではないと思います。

こういった状況下だと、人はどうしても「不安」になります。メディアで毎日のように流されている危機感を煽るような情報が、それに拍車をかけていると思います。これはこれで思うことは多々あるのですが…とりあえず今回は内科的な話。最近皆さんから頻繁に質問される「熱があるんじゃないか」という心配について書いてみたいと思います。

質問される多くの方は、「普段の平熱は35℃台前半なのに、36.8℃もある。コロナが心配😟」といったものです。特に、以前あったコロナの受診の目安の「37.5℃以上」が撤廃されてからは、ちょっとした熱の上がり下がりで不安になる方が増えた印象があります。当然ですよね。毎日毎日怖い情報に晒されていたら。皆さんに全く非はありません。ただ、冷静に考えてみて下さい。今までの人生で、こんなに頻繁に体温を測ったことがあったでしょうか?皆さんの思っている「平熱」って、本当に正しいのでしょうか?

そもそも、「平熱」とはなんでしょうか?一般的には「普通の気温(22.7~24.4℃)に保たれた室内において、快適な格好をし、空腹でない状態にある健康な状態の体温」のことを言います。室温が18℃の部屋で測ったものや、28℃で測ったものは、そもそも「平熱」ではありません。特に、飲食や喫煙をしてから20分以内、入浴や運動をした1時間以内は、「平熱」としてカウントすることができません。もちろん、女性の場合は月経周期による変動がありますので、「平熱」の確認に不向きです(一般的に排卵後の高温期は0.3~0.5℃上昇します)。

これらを踏まえて、下の図を見て下さい。

これは、健康な人の一日の体温の上がり下がりを示しています。10代~50歳前後の日本人の腋窩温(脇の下で測った体温)の平均は、36.89±0.34℃とされていて、体内時計に従って、一日のうちで一定の幅を保持しながら変動しています(日新医学 44:12,1957;635-638)。一般的に体温の変動幅は0.5~1℃程度で、早朝の4時~6時に最も低くなり、16時~18時にピークになります。また、女性の平均体温は36.9℃で、男性の平均体温の36.7℃より少し高めになります。なお、ご高齢の方は、体温を保つための熱産生能力が低下しているため、体温を調整する力が若い時より10%ほど低下しています。そのため、ご高齢の方の平熱は36.66±0.42℃と成人よりも約0.2℃低く、日内変動も少ないとされています(日老医誌 12:3,1975;172-177)(ご高齢の方は重症感染症でもあまり熱が上がらないことがあり注意が必要です)。

このように、体温は1日の中で、かなり変動するものなのです。もちろん、「普段の平熱は35℃台前半なのに、36.8℃もあるから心配😟」の全てが間違っている訳ではありませんが、この機会に「自分の正しい体温の推移」を把握していただければ、普段の体調管理にも役に立つのではないかと思います

『荷下ろしうつ病』の対策は正しい情報の確認から。何でも気軽に聞いてみて下さいね(^^)