最近、高齢ドライバーの方の自動車事故が大きく取り上げられています。実際のところ、事故件数自体は75歳以上の高齢者より16~24歳の若者のほうが多く、事故件数が増えている訳でもないようです。ただ…目立つんですよね。その悲劇性を考えると、どうしてもセンセーショナルな報道になってしまうんだと思います。被害にあわれた方々やご家族のことを思うと胸が痛みますが、加害者になった方のこれまで歩まれてきた物語やこれからの人生に思いを馳せると、複雑な気持ちになります

こういう時にどうしても話題になるのが「高齢者は自主的に運転免許を返納しましょう」という主張です。俳優の杉良太郎さん(74歳)や教育評論家の尾木直樹さん(72歳)が自主的に免許を返納され、それをマスコミが大々的に取り上げる・・・それはそれで素晴らしいことだと思いますが、「免許を自主的に返納することが正義!」みたいな風潮が強くなりすぎるのも個人的にはどうかと思います。


ま、この辺りの話になると話が混沌としてしまいますので、今回は医学的な問題点を中心に考えてみたいと思います。

高齢ドライバーの事故で、よく「アクセルとブレーキを踏み間違えた」ことが原因として挙げられます。そこで認知症がどうこう・・・といった話が出てきますが、「ブレーキとアクセルを踏み間違える」というのは、認知機能の問題というよりも、運転技術の問題であったり、何かのきっかけで「パニック状態」に陥ってしまったことが原因と考えられます。実際、運転に影響を与える身体的な衰えについては以下のようなものが挙げられます。

・集中力、注意力の低下

・視覚の低下情報処理能力の低下

・反射神経の鈍化

・体の柔軟性の低下(特に股関節)

・身体の敏捷性の低下(思ったとおりに動けない)

これらの要素が複合的に絡み合い、さらに自分がブレーキとアクセルを踏み間違えたことにパニックを起こし、さらにアクセルを踏み込んでしまう、というケースが多いようです。少なくとも、「認知機能低下が高齢者の事故を引き起す原因」と言い切るには無理があるようです(実際、警視庁の発表によると2018年に交通死亡事故を起こした75歳以上のドライバーの約95%は「検査の結果、認知症ではない人」だったそうです)。

それに対して、現在70歳以上の高齢者の方々が運転免許更新の際に受講が義務付けられている『高齢者講習』は「認知機能検査」のみです。例えばこんな問題。


最初にこの絵を見ながら説明をうけ、後で「この中で身体の一部は何ですか?」や「この中の電化製品は何ですか?」といった質問をされるのですが・・・どうでしょうか?もちろん、これらの質問に答えられない場合の運転は難しいと思いますが、昨今問題になっている事故への対策と考えると「?」となってしまいます。

自動車がないと生活が成り立たない方は大勢いらっしゃいますし、自動車運転を辞めて自転車に替えることで、自転車事故が増えているという事実もあります。もちろん、『高齢者講習』は絶対に必要だと思いますが、運転能力があるかないかをより正確に判別するためには、認知機能の低下だけに着目するのではなく、「運転技術」そのものをチェックする必要があるのではないかと思います

とは言っても、ご家族の皆様の中には「うちの親が認知症の気があるんだけどまだ運転するって言ってるし、どうしたらいいんだろう?」という悩みを抱えられている方も多くいらっしゃると思います。少し前になりますが2015年に効率長寿医療センターが作成したフローチャートがありますのでご参照下さい。

2015年 国立長寿医療センター作成