相変わらず新型コロナウイルス感染症が猛威を奮っています。今シーズンはインフルエンザウイルスを始め、他の感染症が大幅に減っているにも関わらず、新型コロナウイルスだけがのさばる・・・なんとも嫌らしいヤツらです(-“-) ただ、我々が出来ることは変わらず「手洗い」「マスク」「三密回避」!マスコミもさすがに最近はこの話題も減ってきています。それに入れ替わるように出てきたのが『ワクチン』の話。一応任意接種ということですが、政府の思惑も絡んで、何をどうしたらいいのか・・・。いずれにしても、正確な知識を身に付けておくことが大切です。

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ところで『ワクチン』って?

そもそも、ワクチンとは何なのか、というところから。動物は、外部から敵(細菌やウイルスなど)が入ってくると、それを攻撃する仕組みを持っています。この仕組みを「免疫」といい、これを利用したものが「ワクチン」です。無毒化、あるいは毒性を弱めた薬品を身体の中に入れることにより、あらかじめ細菌やウイルスに対する免疫(抗体)を作り出し、病気になりにくくするのです。後で詳しく触れますが、稀に発熱や発疹などの副反応がみられますが、実際に感染症にかかるよりも症状が軽く済むことや、周りの人に移しにくくなる、といったメリットがあります。

ワクチンの歴史を少し

ワクチンの歴史を紐解いてみると、実は紀元前1000年頃までさかのぼることになります。「天然痘を生き延びた子供は、その後天然痘にかかりにくい」ということが、既に知られていたのです。また、インドや中国では「人痘接種」といって、天然痘患者のかさぶたをすりつぶし、健康な人の鼻の穴に吹き付けたり、傷をつけて擦りこんだりしていたそうです。わざわざ傷をつけて擦りこむなんて、現在では考えられませんが、実際18世紀前半までは世界中で行われていました。

ワクチン接種の歴史が大きく動いたのは18世紀末。もともと牛の病気である牛痘に感染した人が天然痘に罹らなくなることが知られていたのですが、1796年、イギリスの医師エドワード・ジェンナーが、8歳の少年に牛痘の膿を植え付け、数カ月後に天然痘の膿を接種したところ天然痘に罹らなかったことを証明しました。これが史上初のワクチンである天然痘ワクチンです。ジェンナーの画期的な発明が、インフルエンザ、麻疹(はしか)、ポリオ、破傷風、子宮頸がんなど様々な病気の蔓延を防ぐワクチンへと繋がっていったのです。

ワクチンの種類

脱線しましたので本題へ(笑)。

ワクチンの代表的なものとして「生ワクチン」「不活化ワクチン」および「トキソイド」があります。

<生ワクチン>

病原体自体は生きているのですが、その病原性を弱めたものです。これを接種すると、一回でその病気にかかったのとほぼ同程度の免疫力が付きます。弱いと言っても病原性はありますので、身体の中で徐々に増えていきます。その為、接種後1~3週間後に、自然に罹った時と同じような、ごく軽い症状が出ることがあります。免疫の効果が得やすい利点がありますが、妊婦さんや免疫のある人には使えません。

<不活化ワクチン>

病原性を無くした細菌やウイルスの一部を使います。安全性は高いのですが、生ワクチンに比べて免疫力がつきにくく、かつ持続しません。その為、何回かに分けて接種する必要があります

<トキソイド>

細菌の産生する毒素(トキシン)を取り出し、免疫を作る能力はあるけど、毒性を無くしたものです。

では、今話題になっている新型コロナウイルスのワクチンはどこに分類されるでしょうか?実は、どれにも分類されません。まもなく国内で使用される予定のワクチンは『m(メッセンジャー)RNAワクチン』という種類のもので、病原体の抗原(免疫反応を起こさせる物質)をつくる蛋白質の塩基配列を作る情報を持ったmRNAを投与して、投与された人の細胞内でmRNAが抗原のたんぱく質に翻訳されて免疫を獲得するのです。難しいですよね。要は「ウイルスそのものを入れるのではなく、最終的にウイルスになる種だけを入れて、体の中で育てる」訳です。

これまでに国内で承認されたmRNAワクチンはありません。つまり、我々は今まで経験したことのない作り方のワクチンを打つことになる訳です

新型コロナワクチンのメリット、デメリット

そろそろ、今回の本題である「新型コロナワクチンは有効か?」に移ります。今後接種が予定されているのはファイザー社とモデルナ社のワクチンですが、どちらも数万人単位(ファイザー社43,000人、モデルナ社30,000人)のランダム化比較試験という、十分信頼に足りるデータが報告されています

一番大切な『予防効果』ですが、いずれのワクチンも90%以上(ファイザー95%、モデルナ94.1%)という、非常に高い数値が報告されています。正直、ビックリな数値です。一般的に生ワクチンは予防効果が高く、その中で最も予防効果が高い麻疹ワクチンが95%です。御馴染みインフルエンザワクチンの予防効果に至っては50~60%程度しかありません。一回接種と二回接種の差はありますが、新型コロナワクチンの予防効果は極めて高いと言えます。これは、重症化リスクの高い高齢者でも同様の傾向を認めています(65歳以上への有効率 ファイザー社94.7%、モデルナ社86.4%)。

同じく大切な『重症化を防ぐか』という点ですが、こちらも両社それぞれ極めて高い予防効果が示されました(ファイザー社:重症化した10例中ワクチン群1例、モデルナ社:重症化した30例中ワクチン群0例)。

ここまでは、文句なしの成績です(正直、ここまでいいと逆に心配になります(^^;))。では、『安全性』はどうでしょうか?

まず、大前提として「100%安全なワクチンはない」ということを抑えておく必要があります。ワクチンの有害事象のことを『副反応』と言いますが、一般的に一番多い副反応は、注射した部位が赤くなる『発赤』と赤い斑点になる『紅斑』、注射部位が腫れる『腫脹』で、それぞれ10~30%の確率で起きます。発熱や倦怠感、食欲不振は10~20%程度みられ、その他、呼吸困難や痙攣、歩行困難、視力の低下、目の痛み、下痢、腹痛など症状はさまざまです。血圧低下や意識障害を起こす『アナフィラキシー反応』と、手足の麻痺などの神経障害を伴う『ギランバレー症候群』は10万人に1人程度が発症します。

新型コロナワクチンの副反応で最も頻度が高いのが『発赤部位の痛み』で、6~9割の人が痛みを訴えたようです。全体の約1%が重度の痛みであったとのことで、この点はインフルエンザに比べる結構な頻度です。かなり痛いワクチンであることは覚悟した方がよさそうです(‘◇’)ゞ 

心配されている『アナフィラキシー反応』ですが、実際に接種されているアメリカで190万人に21人にアナフィラキシー反応が起こったと報告されています。約10万人に1人の割合で、一見少なそうに感じますが、一般的なワクチンに対するアナフィラキシー反応の発生率は100万分の1ですので、「10倍も多い」ともとれます。ちなみに、アナフィラキシー反応の起こった21人のうち、17人には何らかのアレルギーがあり、その内7人は過去にアナフィラキシー反応を起こしたことがあったようです。

その他、だるさや頭痛も認めるようですが、重度の報告はされていません。また、高熱が出ることは多くないようです。

ここまでの情報をみていると、「新型コロナワクチン、まぁボチボチなのかな」となりそうですが、まだまだ分かっていない点もあります。それは「遅れて出てくる副反応の評価がされていない」ということです。

遅い方の副反応の典型は脳炎などの神経障害や、末梢神経が麻痺するギランバレー症候群などです。これらが起こる頻度は、一般的なワクチンで100万回に数回程度です。治験の段階でコロナウイルスワクチンでのこれらの副反応は報告されていませんが、せいぜい数万回の投与例で100万回に数回起こる副反応の有無を評価できているか疑問が残ります

さらに、もう一つの重要な副反応に『ADE(抗体依存性感染増強)』というものがあります。ワクチン接種後に抗体ができ、その抗体のために感染症が悪化するというもので、非常に重篤化することが知られています。これは、多くの重症化した症例を検討しないと評価ができないのですが、現時点ではワクチン接種後に感染した症例自体が少ないので、どの程度発症するかは全く分かっていません

分かっていないことはまだまだあります。癌などで免疫を抑える治療をしている方々には安全に接種できるのか、免疫異常により発症する関節リウマチなどの膠原病に投与は可能なのか、新型コロナウイルスの潜伏期の人や、感染しているけど発症していない人に投与するとどうなるのかなど、これから情報を蓄積していかなければならないことだらけです。

さらに問題になりそうなのが「ワクチンはどの程度の期間効いていて、どのくらいのペースで接種すべきか」が分かっていないことです。例えばはしかやおたふくかぜは一度病気にかかるか、2回ワクチンを接種すれば、数十年に渡り免疫が続きます。それに対して、インフルエンザは4カ月程度しか免疫が持続しません(何故このような差が出来るか、実はまだ分かっていないんです)。じゃあ、新型コロナワクチンがどれぐらい免疫が持続するかというと「全然わかってないけど、多分インフルエンザと似たようなものじゃないか」という、現時点では非常にふわっとした感じになっています。恐らくこれから毎年接種していくことになると思いますが、じゃあ、何度も接種して副反応が増えないかといえば、これもよく分かっていません。

そして、個人的に一番気になることは「日本人を対象とした大規模なデータがない」ということです。通常のワクチン開発では、市場に出回る前に100人弱の第1相試験、数百人規模の第2相試験、数千人を対象とし第3層試験を経て、市場に出回ってからも実際の使用データを集積し続けることで、安全性を担保しています。この過程にはかなりの時間がかかり、通常は7~12年程度を要します。今回は、国内での試験を全部ぶっとばして、いきなり本番を迎える訳です。海外の、主に白人の方々を対象とした試験で結果が良かったからといって、同じ結果が日本人でも出るかは、現時点では全く未知数です。要は、バリバリの大リーガーの触れ込みで来日した選手が、必ずしも日本の野球に順応して活躍できるかと言えば、そうでもない・・・って、分かりにくいですかね(^^;)

とりとめもなく書いてしまいましたが、最後に、現時点での新型コロナワクチン『利点』『欠点』をまとめておきます。

<利点>

  • 予防効果は90%以上!従来の予防接種の中でもかなり有効(インフルエンザワクチンの予防効果は50~60%程度)
  • 重症化リスクの高い65歳以上の高齢者でも85~90%とほぼ同程度の予防効果
  • 感染した際の重症化する割合を大幅に下げる(かもしれない)

<欠点>

  • 今まで投与されてきたワクチンとは全く違う、『mRNA』を投与するワクチン(人類が未経験のワクチンです)
  • 接種部位の赤みや腫れが6~9割以上と、かなり高頻度に認める(おそらく“痛い”予防注射)
  • アナフィラキシー反応は10万人に1人の割合で起こる(インフルエンザワクチンの約10倍の頻度
  • 脳炎、ギランバレー症候群、ADE(抗体依存性感染増強)といった重篤な合併症に関しては、評価するのに十分な症例数がない
  • 現時点では日本人を対象としたデータがほとんどなく、今あるデータがそのまま日本人に当てはまるか分からない

ワクチンは治療薬と違い、健康な人が予防効果をより高めるために接種するものです。当然高い安全性が求められますが、決して完璧ではありません。ワクチン接種について国は『推奨』しているものの『義務』ではありません。接種するかは個人の自由ですので、間違っても、接種しない選択をした人を避難するようなことがあってはなりません(「マスク警察」「自粛警察」のような「ワクチン警察」がはびこらないことを祈るばかりです)。出来るだけ正確な情報を集め、メリットとデメリットを天秤にかけて、皆様にとって最良の結果が得られますように。