今年の夏に『麻疹(はしか)』が流行して大騒ぎしていましたが、今度は『風疹(三日はしか)』が流行してきました。10月7日の時点で、国内で1,103人の感染者が報告されていますが、1,000人を超えたのは、大流行した2013年以来5年ぶりのことです。この年の感染者は、最終的に約14,000人に上る大流行になりました。さすがに今年はここまでの感染の広まりはないと思いますが、十分な注意が必要なことに変わりありません。

 

風疹は 2~3週間の潜伏期間を経て、発熱や発疹、リンパ節の腫れなどの症状が出現、3~5日程度で治っていきます(これが『三日はしか』の由来です)。特に耳の後ろや後頸部のリンパ節が腫れることが多く、リンパ節の腫れ自体は数週間続くこともあります。合併症として脳にウイルスが炎症を起こす『脳炎』がありますが、風疹患者の4,000~6,000人に1人と頻度は稀です。麻疹ウイルスに比べれば感染力が低いものの、インフルエンザウイルスの約5倍の感染力があり、決して侮れません(感染力はインフルエンザウイルスを1とすると風疹が5倍、麻疹が15倍です)。他人への感染力が強いのは発疹が始まる数日前から発疹出現後1週間程度・・・つまり、まだ症状が出ていない状態で接しても移ってしまうのが厄介なところです

 

ちなみにこれが風疹の発疹。淡い赤いブツブツが特徴です。

 


国立感染症研究所WEBサイトより

 

今メディアで騒がれているのが「妊婦さんへの感染」で、我々内科医も非常に神経を使うところです。妊娠20週までの妊婦さんが感染すると、胎児が『先天性風疹症候群』にかかることがあり、特に妊娠10週までに感染すると、約90%の胎児に何らかの影響が出ると言われています。三大症状は『難聴』『心疾患』『白内障』で、その他『血小板減少』『紫斑』『肝肥大』『小頭症』『小眼球症』などが報告されています。死亡率が20%程度と非常に高い上、発症してからの治療法もほとんどありません。とにかく、母親が感染しないことが非常に重要になってきます

 

予防はとにかく『ワクチン接種』です。かつては子供のうちに風疹に感染し、自然に免疫を獲得することが普通でした(自然にかかっている場合は一生免疫が切れません)。しかし、風疹ワクチンの接種率が上昇したことで自然に感染する人が減り、結果として予防注射の効果が切れる25歳前後でかかってしまうという、なんとも皮肉な悪循環に陥ってしまっているのです。

 

恐らく多くの方々の興味は「自分はワクチンを打つ必要があるの?」ということだと思います。以下の表は平成30年10月1日現在で、過去に何回予防接種を行ったかを表しています。参考にしてみて下さい。

 

(AERA 2018年10月29日号より)

2回予防接種をうけられている方は、実際にかかったことのある方とほぼ同等の免疫力がありますので、1990年4月2日以降に生まれている方は接種の必要がありません一番危険な世代は1987年10月2日~1990年4月1日生まれの方で、幼児期にうったワクチンの効果(平均20年)はほぼ消えています。その上の世代の1979年4月2日~1987年10月1日生まれの方の免疫も、そろそろ消えかけていますので同様に要注意。それではより上の世代は一応子供の頃にほとんどの人がかかっていると言われますが、実際それが風疹だったのか、しっかりした検査はされていない方が多いと思いますので、大丈夫とは言い切れません。

 

まとめると・・・

  • 1990年4月2日以降:風疹の抗体検査もワクチンも必要ありません
  • 1987年10月2日~1990年4月1日:確実に感染したことが分かっていない場合は、早めの予防接種をお勧めします。
  • 1979年4月2日~1987年10月1日:確実に感染したことが分かっていない場合は、抗体検査を受け、必要ならばワクチン接種をして下さい。
  • 1979年4月1日以前:本当に風疹にかかっているか、母子手帳で確認して下さい。分からない場合は抗体検査を受け、必要ならばワクチン接種をして下さい。

 

当院では、風疹抗体価検査を2,800円、麻疹・風疹混合ワクチンを8,000円(いずれも税込み、医療保険適応外です)で行っています。ご希望の際は電話での連絡をお願いします。

 

ちなみに、妊娠中はワクチン接種を受けられませんのでご注意を。

 

人気医療漫画『コウノドリ』で、先天性風疹症候群が取り上げられていました。この疾患は、まさに「阻止できたはずの障害」です。女性だけではなく、身内・他人に関わらず妊婦さんに接する可能性のある全ての人が意識していただければと思います

 

コウノドリ第四巻(モーニングKC)より