先日、『クックパッド・ニュース』さんに取材していただきました。最近色々なメディアにお声掛けいただけて、有難い限りです。自分自身の知識の振り返りにもなって、とても助かってます。今回のテーマは「食後の血糖値をゆるやかにすると、何が良いの?」です。記事もしっかりまとめていただいたのですが、紙面の関係上、少しカットされているところがありますので、完全版?を載せておきますね。

よく耳にする「血糖値」とは?

我々は脳や神経、内臓、筋肉など全てのパーツを動かすためにエネルギーを取り込む必要があります。そのエネルギー源となるのが「ブドウ糖(グルコース)」です。主にお米やパン、麺などに多く含まれる「糖質」が体の中で消化吸収されてブドウ糖になり、血液中に入ります。その血液中のブドウ糖の濃度が「血糖値」です。「糖質制限!」なんて言葉も流行っていますし、何かと嫌われ者の糖質ですが、脳・神経系に対する速効性の高いエネルギー源になったり、筋肉の運動や体温を維持したり、体の中を巡ってエネルギーを供給したりといった、非常に重要な役割をしています。また、糖質の一部は体の構成成分になったり、血液中のコレステロールを下げたり、便秘を予防したりと、生きていくためには欠かせないものです。つまり、ある程度の「血糖値」を保つことは、非常に大切なことなんです

この「血糖値」の高い状態が続くと「糖尿病」になります。突然大袈裟な話になりますが、そもそも、人類が誕生してからほとんどの時間は、食事のとれない飢餓の時代でした。そのため、人の体は血糖値が下がった時に備えて万全の体制をとっています。実際には、グルカゴン、アドレナリン(エピネフリン)、糖質コルチコイド、成長ホルモンといったホルモンに血糖値を上げる作用があります。それに対して血糖値を下げる効果があるホルモンは、わずかにインスリンのみなんです。多勢に無勢で、飽食の時代の現在では、よほど気を付けていないと血糖値は上がっていってしまうんです

血糖値が高いとどうなりますか?

血糖値の正常値は80~99mg/dLです。一時的に血糖値が多少高くなっても(200mg/dL程度)、基本的にはほとんど症状を認めません。300~400mg/dL程度になると、だるさが出てきたり、集中力がなくなったり、喉が渇いたり、尿量が増えたりします。ただ、いずれの症状も漠然としたものですので、この時点でも血糖の上昇に気付かれることはあまりありません。血糖値が500mg/dLを超えると、吐き気や嘔吐、意識障害などを来し、場合によっては生命も脅かしかねない危険な状態になります。

一般的に問題になるのは、持続的に血糖値が高い場合です。血液中のブドウ糖が多くなると、血管の内側から活性酸素が大量に発生します。活性酸素は血管を酸化させる、つまりサビさせることによって血管を破壊します。その結果、酸素と栄養素が届かなくなり、手足のしびれ口の渇き頻尿皮膚のかゆみなどがみられるようになります。さらに高血糖状態を放置してしまうと、様々な合併症を認めるようになります。代表的な三大合併症は、糖尿病経障害糖尿病網膜症の障害)、糖尿病で、頭文字をとって『しめじ』といいます。その他、認知症、免疫力低下、骨粗しょう症、勃起不全など、その影響は全身に及びます。さらに、糖尿病の合併症には『えのき』もあるんです。「壊疽(えそ)」「脳血管障害」「狭心症や心筋梗塞」と、やや強引な語呂合わせですが、糖尿病でみられる恐ろしい合併症なので、是非覚えておいて下さい。

低すぎてもよくない?

先ほどお話しした通り、ブドウ糖は生命活動を維持するための大切なエネルギー源です。その為、低血糖状態は、様々な「エネルギー不足による症状」を来します。個人差はありますが、一般的には血糖値が70mg/dL以下になると血糖値を上げようとすることによる自律神経の乱れ(冷や汗、動悸、寒気、手指の震え、不安感など)が出現します。この段階で対処できればいいのですが、血糖値が50mg/dLを切ると、集中力低下、眠気、めまい、視点が定まらない、異様にだるい、といった症状から、意識障害、けいれん、昏睡へと進んでいきます。

ただ、ここまで典型的な症状は、ホルモン異常をきたす病気や糖尿病に対して飲んでいる薬の副作用といった、ある程度予想しやすい場合に多くみられます。臨床的に問題になるのは「夜間低血糖」です。夜中に動悸や寒気で起きたり、悪い夢をみたり、寝汗をかいたり、朝の頭痛を認めたりする時に疑いますが、自分ではもちろん、お医者さんに相談してもなかなか気付かれることがなく、対応が遅くなることが多々あります。また、もともと自律神経が乱れがちな人は、低血糖の最初にみられる自律神経の乱れに伴う症状を自覚しにくく、気付かないうちに低血糖を繰り返す場合があります。これを「無自覚性低血糖」といい、心臓や認知機能に影響を与えると報告されています。

理想的な血糖値とは?

先にお話しした通り、血糖値は上昇させるためのホルモン(グルカゴン、アドレナリン、糖質コルチコイド、成長ホルモンなど)と、下降させるホルモン(インスリン)によって、一定の範囲内にコントロールされています。ただ、健康な方でも、絶食が続いた後の空腹状態や、食事を食べた後など、状況により血糖値は変動します。そのため、臨床の現場では少なくとも8時間以上の絶食後に測定する「空腹時血糖」と、食事と採血時間との時間関係を問わないで測定する「随時血糖(2時間以上)」が使用され、それぞれ空腹時血糖が70~99mg/dL、随時血糖が140mg/dL未満に正常値が設定されています。ちなみに、空腹時血糖126mg/dL以上、随時血糖200mg/dL以上が糖尿病と診断される条件の1つです。

食後の血糖値をゆるやかにすると良いというのはなぜ?

食後は誰でも一時的に血糖値が高くなります。通常はすい臓からインスリンがすぐに分泌され、血糖値は食後2時間以内には正常値まで戻ります。食後2時間に測った血糖値が140mg/dL以上の場合を「食後高血糖」と言い、これはインスリンの分泌量が少なかったり、肥満などでインスリンの働きが不十分になっている状態です。特に血糖の上昇が激しい場合を「血糖値スパイク」と言います。いわゆる「血糖値の乱高下状態」で、血管に大きなダメージを与えることで、動脈硬化を促進、結果的に脳梗塞や心筋梗塞といった、命に関わる病気を引き起こす場合があります。

ここで注意していただきたいのが、「健康診断では血糖値スパイクが見つけにくい」ということです。一般的に、健康診断で糖尿病を確認するための項目として「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」が測定されます。これは過去1~2か月の血糖値を反映します。つまり、「1~2か月の糖代謝の平均」です。そのため、仮に食後に高血糖な状態があっても、それ以外の時間が正常、あるいはやや血糖の低い状態があった場合は、「異常なし」と判断されてしまう可能性があるのです。

血糖値を下げるための理想的な食生活は?

まず、当院の待合室に掲示している『糖尿病食事療法7カ条』をご覧ください。

朝食をしっかり摂ると血糖値を下げるインスリンの分泌を促す消化管ホルモンである「インクレチン」が出やすくなりますので、昼食以降の血糖上昇を穏やかにしてくれます(①)。ビジネスパーソンの方は、どうしても「昼食は麺類や丼物で手っ取り早く」となりがちですが、これは食後血糖の爆上がりを招きます(②)。「果物は体にいい」というイメージがあると思いますし、実際ミネラルやビタミンが豊富です。その反面、血糖値の上昇を来しやすい食べ物でもあります。夜に摂ることは控えましょう(③)。どうしても夕食が遅くなる方は、おにぎりやサンドウィッチなどの糖質をできるだけ早めに摂ることをお勧めします(④)。せっかく「糖質オフ」を謳ったアルコールを選んで飲んでも、一緒にスナックやラーメンなどをとっていたら、血糖値の観点からは最悪です。とはいえ、酒の肴がないのは寂しい限り。サラダスティック、枝豆、冷奴など、低糖質なものを選びましょう(⑤)。先ほどインクレチンの話をしましたが、一食の中でインクレチンを効率よく出すためには、「食物繊維」→「タンパク質」→「炭水化物」の順番がお勧めです。「和食の懐石料理の順番」と覚えると、ちょっとなリッチな気分になるかも(⑥)。カロリー制限も大切ですが、極端なカロリー制限は、体を動かすエネルギー量の低下を招くのでお勧めしません。むしろ、ブドウ糖の吸収を穏やかにしてくれる「食物繊維」にこだわりましょう(⑦)。

血糖値を意識したときに意識的に摂りたい食材、避けたい食材は?

ここまでの話で、「食物繊維」の重要性は理解していただけたかと思います。私たちが摂取した糖質は、胃で消化されて小腸に到達し、最終的にブドウ糖まで分解されて吸収されます。この、小腸での吸収が遅くなれば、食後の血糖上昇が緩やかになり、インスリンを分泌しているすい臓の負担を減らすことが出来ます。この作用を利用した「α・グルコシダーゼ阻害薬」という糖尿病の薬がありますが、この薬と同様の働きをするのが「食物繊維」なんです

食物繊維は、野菜、豆類、海藻、キノコなどがありますが、その中でも血糖コントロールに特に大切なのが大根、パセリ、ワカメ、昆布、ひじき、もずく、大豆、大麦などに多く含まれる「水溶性食物繊維」です。水溶性食物繊維を糖質と一緒にとると、消化管からの糖の吸収が遅くなります。その結果、血糖値の上昇が緩やかになり、糖尿病の改善に繋がります。特におすすめなのは「海藻類」です。海藻類には「アルギン酸」という食物繊維の一種が含まれています。わかめや昆布、もずくなどのネバネバは、このアルギン酸によるものです。このアルギン酸は食べ物が胃から小腸に送るスピードを緩やかにし、血糖上昇を抑えてくれます。それ以外にも、腸内の善玉菌を増やしたり、消化管での脂肪の吸収を抑えたりしますので、糖尿病の予防以外にも、便通の改善やメタボ対策、免疫力アップなど様々な効果が期待できます。

その他、インスリンの作用を助ける玄米や胚芽米、糖を分解してエネルギーに変えるビタミンB1が豊富な豚肉、インスリン分泌を改善させる効果をもつEPAやDHAを多く含む青魚(サバ缶がお勧め!)、食物繊維と同じような働きをするレジスタントプロテインが含まれている高野豆腐、食物繊維だけでなく抗酸化作用のあるリコピン、良質なたんぱく質であるグルタミン酸やアスパラギン酸を多く含むトマトなどもお勧めの食材です。

糖尿病だから食べてはいけないもの・・・実は、あまりありません。確かに、あんこたっぷりの饅頭や、生クリーム山盛りのフラペチーノなど、明らかに「糖質の塊!」みたいなものは避けた方が無難です。でも、基本的な食事においては、糖尿病の治療中で医師からの指導受けている時以外は、食べてはいけないものの意識はそこまで持つ必要はないと思います。大切なのは「食べ方」です「早食い」、「ドカ食い」、「間食」、「ながら食い」を避け、朝食をしっかりとって、夕食は早めに済ませる、これがポイントです。あまりに「これはダメ」、「あれもダメ」では、食べる楽しみが半減してしまいますし、長続きしません。「正しく、楽しく食べる」、これが糖尿病にならないための食べ方です。