大きな病院に勤務しているときは気づかなかったのですが、クリニックの外来をしていると、肩こりで悩まれている方の多さに驚きます。ただ、当院が内科ということもあり、直接訴えられる方はあまりいらっしゃいません。「何か他に症状はありますか?」といった質問では出てこないのですが、診察の過程で首や肩の触診をするとビックリするぐらい硬くて初めて気づくことが多いです。私自身もそうですが、あまり「症状」として認識はされていないのが現状です。
そもそも『肩こり』という表現は、日本独特の表現です。海外では「stiff neck」「shoulder stiffness」(stiffness:硬いこと)と表現されたり、単に「neck pain」と言われることもあります。実は、日本で最初に「肩が凝る」という表現をしたのは夏目漱石なのだそうです。漱石が1910年に朝日新聞で発表した小説『門』の中に「指で押してみると、首と肩の継ぎ目の少し背中へと寄った局部が、石のように凝っていた。」という一文があり、これがもとで『肩こり』という言葉が使われるようになった・・・所説あるようですが。
なぜ肩がこるのか、簡単にまとめておきますね。もともと人間の骨や筋肉は直立状態に向いた作りではありません。進化の過程で“無理やり”立った状態に合わせてきただけです。実際は5~6㎏ある頭と7~8㎏ある両腕を頑張って支えているので、当然、首や肩の筋肉にはかなりの負担がかかっています。特に頑張ってくれている筋肉は以下の4つです。後で触れますが、マッサージ等を行うときにこれらの筋肉を意識すると効果的ですので、何となく覚えておいてください。
- 僧帽筋(頭と首の付け根から、背中の中心まで広くつながっている筋肉)
- 肩甲挙筋(首からつなげて肩甲骨を持ち上げている筋肉)
- 菱形筋(左右の肩甲骨を中央に寄せて「胸を張る」筋肉)
- 広背筋(腕のつけ根から肩甲骨・背中全体・腰までを支える筋肉)
肩こりは様々な症状を伴います。頭痛、めまい、目の疲れ、動悸、倦怠感、不眠、腕のだるさ、手のしびれ、手足の冷えなど症状は多彩です。これらの多くは自律神経の調子が悪くなり起こるのですが、あまりにも多彩な症状のため、病院で「自律神経失調症ですね」「更年期障害です」「ストレスのせいですね」などで片付けられることも。それを見落とさないようにするのも大切ですが、当院は内科ですので、本題はこれ。「肩こりがサインになる危険な内科疾患」です。以下のパターンは命の危険もありますので、早めに医療機関を受診して下さい。
- 運動した時、息切れを伴う時:狭心症や心筋梗塞の可能性があります(特に、突然起こって突然消える場合は要注意!)
- 目の奥の違和感、吐き気、頭痛を伴う時:脳動脈瘤の可能性があります(脳の血管にできたこぶが周りの神経を圧迫するため)
- 頭痛に突然の首こりを伴う時:くも膜下出血の可能性があります(動脈瘤による頭痛が先行する場合もあります)
筋肉、骨、関節が原因となる肩こりに関しては整形外科や接骨院、カイロプラティックなどの先生方による良質なウェブサイトが沢山ありますので、是非そちらをご覧ください。
最後に肩こり解消法を少しお話させてください。まずは食事。必要なビタミンは『ビタミンB群』と『ビタミンE』です。特に大切なのが『ビタミンB1』。これは糖質からエネルギーを作るときに必要なのですが、神経の機能を正常に保つ作用もありますので、肩こりの他、眼精疲労や腰痛、激しい運動をする人におすすめです。豚肉、レバー、豆類などに含まれています。ビタミンEは結構改善に効果的です。アーモンドなどのナッツ類、植物油、かぼちゃ、うなぎ、アボカドなどに豊富に含まれています。
蒸しタオルやカイロ、温熱シートで温めるのも有効です。もちろん入浴もOK。ただし、急性の肩こりの場合は中で炎症が起こっている可能性もあるので、その際は冷やす必要がありますのでご注意を。
肩こりに効果的なツボもあります。代表的なのは『曲池(きょくち)』『合谷(ごうこく)』『手三里(てさんり)』です。
肩こり解消のマッサージも色々なところで取り上げられていますが、今回は先ほど挙げた4つの筋肉を意識した、非常に理にかなったストレッチがあるのでご紹介しましょう。音楽で有名なYAMAHAがオリジナルで開発した『Revストレッチ』というものです(有難いことに利用はフリーとなっています)。全て通してやらなくても大丈夫ですので、あなたの肩こりにあったストレッチを探してみて下さい。
(音声が出ますのでご注意下さい)
「こんなの覚えるの面倒くさい!」という方には『新聞紙素振り』はどうでしょう。新聞紙を丸めて、剣道の素振りのように5分程度上げ下げします。胸を張って腕を肩より上に上げると、ポイントとなる4つの筋肉が効果的に動きます。血流改善効果もあるのでお勧めですよ。
ちなみに、「母さんお肩を叩きましょ~♪」は微笑ましい光景ですが、緊張した肩の筋肉にとっては、残念ながら逆効果!手のひらで包み込むように、ゆっくりと揉んであげて下さいね(^-^)