インフルエンザの流行が止まりません。昨年最終週(12月23日~12月29日)の一医療機関あたりの季節性インフルエンザの患者報告数は「64.39人」と、警報の基準になる「30人」を大幅に超えていました。感覚的にも過去一番だなと思っていましたが、実際、現在の方法で統計を取り始めた1999年以降、最大の報告数なのだそうです。今年最初の報告(12月30日~1月5日)の同報告数は「33.82人」と一見減っているようにみえますが、年末年始は多くの医療機関が休みでしたので、実情は反映していないと思います。例年のインフルエンザの流行ピークが1月後半であることを考えると、今後もさらに感染者数が増えることが予想されます。
今年の大流行にはいくつかの理由があります。COVID-19パンデミック中の極端な感染対策やインフルエンザ流行抑制により、特に子供達がインフルエンザに晒される機会が減った結果、季節性インフルエンザへの自然免疫を持っていない「免疫ギャップ」が生じていることが報告されおり、大流行を来しやすいと考えられています。
ただ、一番の理由は、今シーズン流行しているウイルスの型です。インフルエンザのウイルスは大別するとA型、B型、C型の3種類があり、ウイルスの型によって発症の状況や経過が多少異なります。A型は発熱や悪寒、のどの痛みなど、『ザ・インフルエンザ!』といった症状が強く出やすい型です。また、ウイルスが次々に変異することも特徴で、A型の一部はどんどん形を変えていくため、一度は獲得した抗体が機能しにくくなり、同じシーズンでも再び感染してしまうことがあります。B型も毎年流行していますが、A型に比べて変異しにくく、一度抗体を持ってしまえば発症しにくい、という特徴があります。C型はA型、B型に比べて症状も感染力も弱く、かつ変異もしにくいことから、あまり問題になることはありません(そもそも迅速抗体検査ではC型まで確認しませんので、流行っているかどうかも分かりません)。
今シーズン問題になっているのはA型インフルエンザの中の『pdm09』という型で、現時点で今シーズンの流行株の9割以上を占めています。2009年にパンデミック(pandemic)となったインフルエンザの型で、2009の09とパンデミックのpdmが名前の由来です。当時は『新型インフルエンザH1N1型』と呼ばれていました。確かに、当時も「今シーズンはインフルエンザ多いな~」なんて思いながら診療をしていましたが、今ほど世の中が感染症に敏感ではなかったこともあり、後から、「あ、パンデミックだったんだ」なんて思った記憶があります(もしかしたら、そのせいでコロナのパンデミックの最初は甘く考えていたかも↷)。
この『A pdm09型』の特徴は、とにかく感染力が強いことです。一人が感染すると家族全員に感染が広がるほどの強い感染力を持っています。ただ、エアロゾル感染(空気感染)をする新型コロナウイルスと違って、咳や唾液などを介して感染する飛沫感染がメインですので、ある程度距離を保ったり、マスクをすることで感染を防ぐことが出来ます(詳しくは後述)。
pdm09型の症状は、基本的にその他の季節性インフルエンザと同じです。発症初期は突然の高熱と悪寒(寒気)、全身の筋肉痛、だるさで、喉の痛みや咳を伴うこともあります。pdm09型は、これに加えて目の奥の痛みを伴う頭痛や、吐き気や嘔吐、下痢といった消化器症状を伴うこともあります。また、感染が肺の近くまで広がることがあり、その場合は痰や咳の量が増えたり、酷い場合は呼吸困難感を伴うこともあります。
最も有効な予防策は、もちろん『ワクチン接種』です。特に、先述の「免疫ギャップ」を生じている小児、糖尿病や膠原病、がん、高齢者など免疫が落ちている方などは、積極的なワクチン接種をお勧めします。日常的な予防策の柱は『手洗い』と『マスク』です。手洗いのポイントは、石鹸などで30秒以上かけて洗うこと。また、冬の乾燥による手荒れはウイルスが付着しやすく増殖する機会を増やしてしまいますので、保湿もセットで行うことが重要です。マスクは、保菌者が正しく装着すると、飛沫の飛散量を5分の1に減らすことが出来ます。また、吸い込む方も4分の1に減らすことができます。つまり、感染している人、感染していない人がお互いマスクをすれば、リスクを20分の1まで減らせるという訳です。
その他、インフルエンザ予防するのに有効な方法は以下の通りです。
「あれ、うがいは?」って思いませんか?実は、うがいでインフルエンザを予防できるという科学的な根拠は、実はないのです。というのも、インフルエンザウイルスを吸入し、喉の粘膜や気管支に付着した場合、細胞の中に侵入するのに必要な時間は数分~20分程度と言われているからです。さすがに、20分ごとにうがいをするってのも、現実的ではありませんからね。
インフルエンザの陰に隠れて、新型コロナウイルスもマイコプラズマも相変わらず流行しています。今一度、ご自分の感染対策を見直してみてはいかがでしょうか。