猛烈な暑さ始まりました。連日のように熱中症に関する報道が繰り返されると思います。このブログでも、以前に熱中症についていくつか記事を挙げていますので、よろしければご覧ください(“本当に怖いのは『熱中症』です”,“「隠れ脱水」—―何を飲む?”)。
ただ、この時期の怖さは熱中症だけではありません。気温が高く、湿度も高くなる夏は、ばい菌が繁殖しやすい環境となり、毎年多くの食中毒が発生します。特に、夏は細菌性の食中毒のリスクが高まります。どんな人でもなる可能性があり、場合によっては命に関わることもあるのが『食中毒』なんです。
今回、当院で研修していただいた先生が、食中毒についてまとめて下さいました。これだけ押さえておけば、今シーズンの食中毒対策はバッチリです。是非ご一読いただき、大変な夏を乗り切りましょう!
夏の食中毒について
次第に気温や湿度が高くなってきました。この時期に心配なのが食中毒です。食中毒の原因には、細菌、ウイルス、寄生虫、自然毒(毒キノコ)などがありますが、特に夏場に気を付けたいのは細菌です。食中毒を引き起こす代表的な細菌をいくつかご紹介します。
【カンピロバクター】
カンピロバクター(主にCampylobacter jejuni) は、汚染された食品や水を介しての経口感染が主な感染経路となります。鶏肉に関連した発生が多く、加熱不十分な鶏肉、生の鶏刺、鶏レバー、生乳などの摂取により発症します。
摂取から症状が現れるまでの期間は2〜5日ほどであり、他の感染性食中毒に比べて長めです。腹痛、下痢、悪心・嘔吐、発熱といった症状がみられます。時にカンピロバクターの感染後に運動麻痺等の症状が出ることがあり、これをギランバレー症候群と言います。
治療は、輸液などの対症療法が中心となります。重篤な症状の場合は抗菌薬を用いることがあります。
【サルモネラ】
サルモネラの潜伏期は菌種により異なりますが、1〜4日程度とされています。原因食物としては鶏卵やマヨネーズ、鶏卵関連食品などの卵を介した感染が多いです。その他に食肉の加熱不良も原因となることがあります。
症状は悪心・嘔吐、腹痛、下痢、発熱などで、下痢は3〜4日程度持続します。小児や高齢者では時に重症化することもあります。
輸液などの対症療法が治療の中心ですが、症状に応じて抗菌薬投与する場合もあります。
【黄色ブドウ球菌】
黄色ブドウ球菌は環境中に広く存在する菌です。不衛生な手で触れた食品(おにぎりなど)が原因となることが多いです。黄色ブドウ球菌は食品内で増殖する際に毒素を産生し、その毒素を摂取することで食中毒が起こります。
潜伏期は1〜6時間であり、細菌性食中毒の中でもかなり短めです。激しい悪心・嘔吐や腹痛、下痢が生じ、多くは1〜2日で改善します。
この毒素は熱に強く、食品の加熱調理によっても活性を失いません。また毒素には抗菌薬が無効なため、輸液等の対症療法が基本となります。
【食中毒予防について】
「食品が腐っていないかよく注意して食べれば大丈夫」と思っている方も多いかもしれません。しかし、食中毒を起こすのに必要な菌量は食品1g当たり通常数百万~数千万であり、この量では匂いや味、見た目などの変化に乏しいことが多いため人の感覚で見分けることは困難です。したがって日常生活での習慣的な対策が必要です。
・つけない
食中毒の原因菌は環境中の様々なところに存在しており、手にも多くの菌が付着しています。調理前、生の肉・魚・卵を扱う前、調理途中でトイレに行った後、動物に触れた後などでは必ず手を洗うようにしましょう。また、生の肉・魚を切ったまな板や包丁は使用ごとに綺麗に洗ったり、野菜用・肉用と使い分けたりするのも良い方法です。焼肉などの時は、生肉を扱う箸と焼けた肉を扱う箸は別々にしましょう。
・増やさない
細菌の多くは高温多湿の環境で増殖が活発になりますが、冷蔵・冷凍では増殖が抑えられます。肉・魚などの生鮮食品は、購入後は帰宅したらできるだけ早く冷蔵庫に入れるようにしましょう。冷蔵していても細菌はゆっくり増殖するため、早めに食べ切ることが大切です。
・やっつける
細菌やウイルスは高温に弱く、十分な加熱で多くが殺菌されます(先述した黄色ブドウ球菌の毒素のように、加熱が無効なものもあります)。食品の中まで高温にすることが大切であり、中心部まで75℃・1分以上の加熱(ウイルス対策では85〜90℃・90秒以上)が目安です。調理後の食品を温めなおす時も、全体に熱が通るまで十分に加熱しましょう。
万が一、食中毒が疑われる症状が出た場合には病院を受診しましょう。下痢や嘔吐がある場合には水分摂取が大切です。水を飲んでも吐いてしまうような場合には、口を湿らせる程度で少量ずつ水分をとると良いです。
食中毒予防を心がけつつ、暑い夏にも安全に美味しく食事を楽しみましょう。