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片頭痛治療の福音!?『ナラティーク錠』について

心と体の繋がりを大切にしている当院には、ストレスとの関連が深い片頭痛の患者様が大勢受診されます(以前このブログで書いた片頭痛の記事もご覧ください⇒コチラ)。片頭痛の痛みは激烈です。生活や仕事に大きな影響を与える本当に辛い病気です。「どの薬を試しても効きにくい」「発作のたびに寝込んでしまう」 そんな声を診療の中で多く聞いてきました。それにも関わらず、一般的な認識としては「いつもの頭痛だから我慢しよう」「頭痛程度で休めない」といった、「大したものではない」といった誤解にまみれています。その誤解が、さらに片頭痛患者さんを苦しめています。

 

片頭痛は、単なる頭痛ではなく「生活を大きく脅かす脅威」なのです。

 

それにも関わらず、片頭痛の治療は、ここ20年ほど“頭打ち”の状態が続いていました。「片頭痛治療の特効薬!」としてトリプタン製剤(イミグラン注3㎎)が日本で発売されたのが2000年、そこから2008年までの間にいくつかのトリプタン製剤が発売され、片頭痛患者さんの生活はある程度改善されました。ただ、これはあくまで急性期の薬で、「出た時に早めに叩く」という“モグラ叩き方式”の薬です。いつ片頭痛の発作が起きるか・・・患者さんが不安に思いながら生活することに変わりはありませんでした。

 

風向きが変わったのは2021年、抗CGRP抗体薬である『エムガルディ』の登場がきっかけです。片頭痛予防における画期的な薬です。ただこの抗CGRP抗体薬、投与経路が注射で、かつ投与できる医療機関も限られていることから、トリプタン製剤ではコントロールできないすべての片頭痛患者さんに届けるには、ややハードルの高い薬です。

 

ただ、この問題を解決してくれるかもしれない新しい薬『ナラティーク錠』が、2025年12月に発売されました。このブログでは特定の薬について触れることはあまりないのですが、長年片頭痛で悩まれてきた患者様の“福音”になるかもしれない薬ですので、取り上げさせていただきます。

 

 

片頭痛の病態を簡単に

 

この薬の有効性を説明するためには、「何故片頭痛が起こるのか?」という知識が必要になります。できるだけ簡単に、順を追って説明します。

 

1.片頭痛のスタートは「脳の過敏さ」から

 

片頭痛の人の脳は、普通なら気にならないような刺激に対して、 「これは危険かもしれない」 と過剰に反応してしまう傾向があります。たとえば「少しの光がまぶしく感じる」「ちょっとした音がうるさく感じる」「寝不足や疲れで頭痛が起きやすい」といった反応で、「脳が過敏になった状態」といえます。もうちょっと簡単に言えば、片頭痛の方は“電気の容量の少ない家”です。色々な家電を同時に使うと、突然ブレーカーが落ちますよね。あれと同じです。光・音・ストレス・天気・ホルモン変化など、 いろんな“家電”が同時に動くと、脳が耐えきれず頭痛が起きるイメージです。

 

 

2.三叉神経が刺激される

 

三叉神経は『額』『魔の周り』『ほほ』『あご』など、顔の感覚をまとめている大きな神経で、痛み、温度、触った感覚を脳に伝えています。片頭痛の発作が起きると、この三叉神経が敏感になり痛み物質(CGRP、サブスタンスP、グルタミン酸など)を放出、脳の血管が広がり、周囲に軽い炎症が起きます。 これが「ズキンズキン」と脈打つような痛みにつながります。

 

3.三叉神経が痛みを伝えると、脳がさらに敏感になる

 

三叉神経からの信号が脳に届くと「光がまぶしい」「音がつらい」「匂いが気になる」といった片頭痛特有の症状も出やすくなります。つまり、 三叉神経の暴走 → 痛み → 脳の過敏さアップ → さらに痛み という悪循環が起きる訳です。

 

 

片頭痛治療の“二刀流”!『ナラティーク錠』とは

 

片頭痛の治療薬には、大きく分けて『発作予防』『急性期治療』の二つに分かれます。発作予防薬には血管の収縮を抑えるカルシウム拮抗薬(例:塩酸ロメリジン)、血管の過度な拡張を抑えるβ遮断薬(例:塩酸プロプラノロール)、脳の過敏性を抑える抗てんかん薬(例:バルプロ酸)などがあり、急性期治療には痛みの中枢に作用するアセトアミノフェン、痛みの原因となる炎症物質を抑える非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)、血管収縮抑制+神経の炎症止めのトリプタン製剤があります。また、急性期治療薬にはトリプタンと似ていますが、脳の血管に直接作用する部分は少なく、神経の炎症を抑える働きが中心のジタン系薬剤(ラスミジタン)なんていう、比較的新しい薬もあります。

 

2025年12月に発売が開始された『ナラティーク錠』は、国内で初めて承認された飲み薬タイプのCGRP受容体拮抗薬(CGRPを作用させないようブロックする薬)です。これまでもCGRPをブロックする薬はありましたが、すべて注射薬、かつ発作予防効果のみでした。一方、ナルティークは『発作予防』と『急性期治療』の両方に対応できるという大きなメリットがあります。まさに“二刀流”です。

 

 

『ナラティーク錠』とトリプタン製剤の違い

 

急性期治療薬の代表格、『トリプタン製剤』は、片頭痛の特効薬として、長年多くの患者さんを救ってきました。しかし、このトリプタン製剤には弱点があります。それは「血管を収縮させる作用」があるということです。もちろん、この作用が痛みを和らげてくれる訳ですが、「血管が狭くなると困る状態」、例えば狭心症、心筋梗塞、脳卒中の既往のある方、高血圧の方などは、血管が詰まるリスクがあるため使用できませんでした。また、飲んでから20~30分程度で頚・胸・のど・肩の締め付け感や、重感、圧迫感、痛み、息苦しさといった不快感『トリプタン感覚』)が出てきてしまうこともあり、服薬できない方も少なくありません。

 

それに対して、『ナラティーク錠』は、血管を収縮させる作用がありません。「血管が広がる」という片頭痛治療の“末端”ではなく、痛みの信号を伝える『CGRP受容体』というCRRPの受け皿をブロックするという“本丸”に切り込むことで、効果を発揮します。これまで心臓や脳の病気でトリプタン製剤が使えなかった方にとっては、まさに“福音”だと思います。

 

 

『ナラティーク錠』と『レイボー錠』の違い

 

先程、「トリプタン製剤発売以降“頭打ち”」なんて表現をしましたが、実は抗CGRP抗体薬が出る前に、ひっそりと(?)発売された薬が『レイボー錠』です。「ジタン系」という薬で。脳に直接作用することにより、脳における痛みの伝達経路を抑制するとともに、末梢での三叉神経の炎症を抑える効果があり、こちらも“二刀流”が売りの薬です。

 

ただ、私の正直な感想としては「ちょっと使いにくいかな」です。というのも、この『レイボー錠』は、めまい、眠気、だるさなどの中枢神経系の副作用が比較的高頻度に起こります。自宅にいてその日は特に何もやることがない時ぐらいしか使用をお勧めしにくいですし、実際、「服用後8時間は運転や危険な機械操作をしてはいけない」という但し書きもあります。それに対して『ナルティーク錠』は、眠気やめまいといった副作用が少なく、運転などの制限もありません。「いつでもどこでも」飲めるのが強みです

 

 

『薬剤の使用過多による頭痛』への“福音”

 

片頭痛治療でよく問題になるのが、「薬剤の使用過多による頭痛(Medication-Overuse Headache: MOH)」です。頭痛がするから痛み止めを飲む・・・これ、当たり前ですよね。片頭痛をお持ちの方に、「痛み止め飲むのは我慢して下さいね」とはとても言えません。でも、その回数が月10日以上になってきたときは要注意!かえって頭痛が慢性化・難治化してしまうことがあります。詳細な原因はまだ分かっていませんが、「痛み止めを飲み続けることで、お薬が体の中にある状態に脳が慣れてしまい、痛みを感じる回路が過敏になってしまう」というのが、MOHの病態と考えられています。

 

MOHの診断基準は以下の通りです。

  • もともと頭痛があった患者で月に15日以上の頻度で発生する頭痛
  • 頭痛の急性期治療のために少なくとも1つの薬剤を3カ月を超えて定期的に過剰使用している※
  • 臨床像をより適切に説明できる頭痛の他の病型がない

 

※過剰使用の具体的な量

・一か月に15日以上使用してはいけない薬剤

アセトアミノフェン(カロナール、コカールなど)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS:アスピリン、バファリン、ロキソニン、セレコックス、ボルタレンなど)

・一か月に10日以上使用してはいけない薬剤

トリプタン、ジタン(レイボー)、エルゴタミン、オピオイド、複合鎮痛薬(カフェイン入りなど)

 

皆さんの飲まれているほとんどの痛み止めのほとんどが、MOHの原因になるのです。もちろん、これは市販薬でも同様ですのでご注意を。MOHの治療は頭痛ダイアリー(⇒頭痛ダイアリー簡易版)を利用して減薬していくのですが・・・これが辛い!頭痛が辛すぎて飲みたくもない痛み止めを飲んでいるのに、それを我慢しろというのですから・・・とにかく、「MOHはなる前に防ぐ!」に尽きます

 

ナルティーク錠が「“福音”になるかも」という理由の一つが、このMOHとの関係です。米国頭痛学会、欧州頭痛連盟は、ナルティーク錠を始めとしたゲバント系の薬剤はMOHを起こさない(もしくは極めて低い)と結論づけています。また、ナルティーク錠に関して、52週間にわたる海外の長期予防試験でも、MOHの発生は「観察されなかった」と報告されています。月16回の急性期使用を許容した試験でもMOHの発生はゼロだったばかりか、トリプタンの乱用者の離脱にも有効だった、という報告もあります。まさに、MOHから抜け出すための、新しい「出口戦略」と言えるでしょう

 

 

水なしで飲める『OD錠』

 

この薬は『OD錠(口腔内崩壊錠)』という剤形をしています。水なしで舌の上で溶けるタイプのお薬ですので、外出先、会議中、運転中など、どんな場面でも服用できます。片頭痛は活動量の多い世代に多くみられる病気ですので、この特徴は忙しい現代人にとって意外に大切なポイントだと思います。

 

 

つまり、『ナルティーク錠』は①心臓や脳の病気のある人も使える、②動悸やほてり、喉のつまりなどの『トリプタン感覚』がない、③めまいや眠気など、レイボーにみられる副作用がない、④薬剤の使用過多による頭痛が起きにくい、⑤口腔内崩壊錠で、水が飲めない場面でもOKなど、良いこと尽くしの薬なのです。

 

 

弱点は・・・お値段 涙

 

お値段的には「良いとこ尽くし」ではありません。2026年3月現在、ナルティークの薬価は1錠あたり2,923円、健康保険で3割負担の場合は約880円になります。例えば、予防のために一日おきに内服して、かつ発作が3回起きてその都度飲んだ場合、月額は112,320円になります。以前はトリプタン製剤もそれなりの値段だったのですが、ジェネリック医薬品が出ている現状ではどうしてもお高く感じてしまいます。ただ、片頭痛によって仕事を休んだり、プライベートを犠牲にしたりした経験のある方にとっては、十分選択肢になりえると思います

 

 

片頭痛で苦しまれている患者様を沢山診てきました。皆さんの生活が少しでも充実したものになりますように。お困りの方は是非ご相談下さい。