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夏に備える!『暑熱順化』

5月にして早くも全国で真夏日報告が続いています。「朝や夜は冷え込むから、服装が難しいですね~」なんて会話を外来でしたばかりだったのですが・・・日本の四季はどこにいってしまったのでしょう(-_-;) 熱中症の脅威は以前より言われ続けていますし、暑い盛りの7月~9月に積極的に水分補給や塩分補給行う意識は、かなり高くなっていると思います(実際の対応に対しては、当院WEBサイト本当に怖いのは熱中症ですや、FNNプライムオンラインで話させて頂いた夏バテの裏に“隠れ脱水”をご覧ください)。

今は「暑い時期の熱中症対策は当たり前!」の時代です。むしろ、最近メディアでよく取り上げられているのは暑くなる前の用意、『暑熱順化』です。実際、一般財団法人日本気象協会は 2022 年から、身体を暑さに慣れさせることの大切さを周知するため、それぞれの地域で『暑熱順化』を始める目安の時期 となる『暑熱順化前線』の公表を始めました。2023年の暑熱順化前線はこんな感じです。

・・・あれ、既に遅いかも💦

暑熱順化って?

改めて、『暑熱順化』について説明します。暑熱順化とは、簡単に言ってしまえば「体が暑さに慣れること」です。我々は運動や仕事などで体を動かすと、体内で熱が作られて体温が上がります。もし必要以上に体温が上がったら、汗をかいて熱を逃がしたり(気化熱)、心拍数を上げたり皮膚の血管を広げたりして、体の表面から空気中に熱を逃がしたり(熱放散)して、最適な体温に調整しようとします。この調整機能が破綻した状態が『熱中症』です暑熱順化すると低い体温でも汗をかきやすくなり、汗の量は増えます。さらに皮膚の血流も増加し熱が逃げやすくなることにより、体温の上昇を防ぎます。さらに、暑熱順化すると、汗腺で作られる汗の中の塩分が、体の外に出る前に血液中に再吸収される効果が更に高まるので、汗に含まれる塩分が少なくなります「体に熱が籠りにくくなる」「急な体温上昇を防ぐ」「汗からの塩分喪失を最小限に防ぐ」という、熱中症対策の観点ではまさに“一石三鳥”な訳です

日本気象協会作成「熱中症ゼロへ」ウェブサイトより

暑熱順化には2つのタイプがある

この暑熱順化には、2つのタイプがあることをご存じでしょうか?数日~数十日間で起こる『短期暑熱順化』と数年~数世代にかけて起こる『長期暑熱順化』です。日本のように「暑い時期も寒い時期もある地域」に住む人の場合、先ほど述べたように暑くなるにつれて汗の量が増えて、その汗の蒸発によって体温上昇を抑えることにより、暑さに耐えうる体にしていきます。つまり、体温調整のメインが『気化熱』な訳で、これが『短期暑熱順化』です。それに対して、東南アジアやアフリカといった「一年中暑い地域」に住む人達は、『長期暑熱順化』によって汗の量を減少させ、その代わりに皮膚の血流を増やして皮膚の温度を高く保ち、それが外気温によって奪われることで熱を下げる、という仕組みを持っています。つまり、『長期暑熱順化』のメインは『熱放散』になります

小難しいことを言いましたが、要するに「季節の変化や運動などで得られるのは短期暑熱順化で、主に汗を上手にかくことで急な体温上昇を防ぐシステム」ということです。

短期暑熱順化のメリットは「比較的短期間で準備が出来る」ということに尽きます。デメリットとしては、「脱水や塩分喪失のリスクが長期暑熱順化より起こりやすい」ということと、「涼しくなったら短期暑熱順化がリセットされる」ということです。つまり、「我々は熱帯地方の人々と違って熱環境に対する身体のシステムが未熟なので、その都度対策をとる必要がある」といえます。

実際、短期暑熱順化で汗かきになる?

では、実際に短期暑熱順化で汗をかきやすくなるのか?かなり古い報告になるのですが、暑熱順化を目的に同じ強度の運動を行った場合、汗を多くかきやすくなるため、深部体温(直腸温)は上昇し難くなることが明らかになっています(Lind AR, BASS DE:Optimal exposure time for development of acclimatization to heat.,Fed Proc,22, 704-708,1963.)。

暑熱順化による直腸温、心拍数、発汗量の変化

また、暑熱馴化することで、汗を掻き始める体温が低くなることも報告されています(山崎文夫ら:汗の拍出頻度よりみた短期暑熱順化による発汗機能の変化、産業医大誌、29:431-438、2007)。

暑熱順化前後における安静暑熱負荷中の食道温と汗の拍出頻度の関係

つまり、暑熱順化を行うことで、「同じ運動量で汗の量が増加し、かつより低い体温で汗をかき始めるため、効率よく体温の上昇が抑えれられるようになる」という訳です。

「汗かきトレーニング」で夏に備える!

さて、いよいよ暑熱順化を始めましょう!何度も強調している通り、日本人の『暑熱順化』の『タイプは短期暑熱順化』ですので、主に発汗により気化熱を増やす必要があります。つまり、「いかに質のいい汗を出すか」がポイントになります。この「汗かきトレーニング」に関しては、以前このブログでも記載させていただきましたが、改めて説明しますね。

<軽めの運動で発汗機能アップ>

最も有効な方法は、やっぱり運動。特に、有酸素運動は手足など末端の血行もよくなり、自然に発汗をうながすことができます。ウォーキング、サイクリング、ジョギングなどが効果的ですが、まずは近所への買い物がてらの10分間ウォーキングがお勧め。体温がゆるやかに上昇し、汗が少しずつ出る運動を続けることで、能動汗腺が刺激されます。また、運動によってエネルギーを使うことで、食欲促進や睡眠の質のアップも期待できます。ご高齢の方は、室内での軽いストレッチや屈伸運動程度でもかまいません。ストレッチは血行をよくし、屈伸運動は筋肉を維持して基礎代謝量の増加につながり、それだけ汗をかきやすくなります。いずれにしても、「軽く息がはずみ汗ばむ程度」を目標にして下さい。

<上手な入浴で発汗機能アップ!>

一時期流行った『半身浴』。20分程度、38℃~40℃程度のぬるめのお湯に腰のやや上まで浸かります。41℃以上のお湯の場合は体表面を一気に温めますが、同時に血圧も急激に変動することがあります。それと比べて低めの温度でじっくり時間をかけて入浴すると、血圧変動が緩やかなので体に負担が少なく、また体の深部までじっくり温めることができ新陳代謝が上がるため、血行が良くなります。また、低めの温度のお湯は身体が休む時に働く「副交感神経」が優位になるので、リラックス効果が高まり、疲労感も穏やかに和らぐため、寝る前の入浴方法としても最適です。さらに、低い温度のお湯で時間をかけてゆっくりと汗をかくことで、毛穴から老廃物が出やすくなり、同時にリンパの流れも促進されて体内の有害物質もが排出されやすくなるので『むくみの改善』にもつながります。肝心の汗ですが、余分な皮脂や老廃物が出た後はサラサラとした質の良い汗が出るようになります

さらにこだわりたい人は、半身浴の前に『手足高温浴』。手足はもともと休眠している汗腺が多いので、まずはここを42~43度の熱めのお湯で温めて目覚めさせます。この『手足高温浴』→『半身浴』を続けると、汗腺の働きは大幅にアップします。

ちなみに、入浴後の過ごし方も大切です。暑い日には、入浴後に薄着でエアコンの風にあたる人もいるかと思いますが、それは禁物。せっかく開いた汗腺が閉じて、休んでしまうからです。小まめに汗を拭いたり、団扇で仰ぐ程度が理想です。「せっかくの風呂上りに・・・」なんていうのはナシで。何と言ってもこれは発汗のトレーニングですから。

<大豆食品を積極的に摂取>

大豆に含まれる『イソフラボン』には、発汗を調節する働きがあります。やはり大豆に多くふくまれる『レシチン』は、食事からとったタンパク質や脂肪をエネルギーに変えるときに必要となる物質です。レシチンが不足するとエネルギー効率が低下し、汗をかきにくくなり、疲労しやすくなります。夏バテ予防にも大切な成分です。豆腐や納豆などを積極的にとりましょう。

<もっと簡単に汗かきトレーニングをしたい人は?>

もっと手軽に(もっと手抜きで!?)汗かきトレーニングをしたい人には、手足の温浴だけでもOK。まず、洗面器やバケツを使って少し高めの温度(42℃~44℃)のお湯をいれ、手と足首を同時に浸けてゆっくりと温めます。全身浴ではなく手足だけ浸けることにより、温まった手足から血液が全身にめぐり、体の芯まで温まります。結果、汗腺が活性化しサラサラの汗が出るようになります

暑熱順化の“リセット”に注意

暑熱順化が完了するには個人差があり、短い人で3日程度、長い人で3週間程度かかります。今まで述べてきた活動をこまめに行えば、より早く暑熱順化が進みますが、ゆっくりでも確実に変化は出てきます。諦めずにご自分のペースで進めていって下さい。ただし気を付けて頂きたいことがあります。暑熱順化が完了したとしても、数日間あまり汗をかかない生活をしてしまうと、せっかく身に付いた暑熱順化がリセットされてしまいます。暑熱順化が完成したからと気を抜いて、しばらくエアコンの効いた部屋のみで過ごしてしまうと、せっかくの努力が水の泡になってしまいます。暑熱順化を身に着けて夏を過ごせば、熱中症だけでなく、暑さに対する適応力を高める効果もあり、夏のダルさや“夏バテ”を防ぐこともできます。こまめにコツコツ「汗かきトレーニング」を行うことが大切です

温暖化が進み、日本の平均気温がさらに上がっていけば、もしかしたら我々日本人も『長期暑熱順化』が完成し、暑さに強い体質になる・・・かもしれません。でも、それは恐らく何百年単位も先の話。今は巡りゆく四季を楽しみつつ、『短期暑熱順化』を繰り返して、夏に負けない体を作っていきましょう!

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