最近腸管出血性大腸菌、特にO-157に関する報道をよく目にします。被害にあわれた方々には心よりお悔やみ申し上げます。ただ、こういった時に闇雲に怖がって行動することはあまりお勧めしません(これは、現在の情報過多の時代においては全てのことに当てはまるかもしれませんね)。今回は、下痢の原因菌に感染しないためにはどうしたらいいか、感染してしまったらどうしたらいいかについて書いてみます。
まず、もっとも大切なことは「どんな時に病院を受診するか?」という点だと思いますので最初に確認しておきましょう。日本臨床内科医会では、以下のような下痢の時は病院を受診するよう勧めています(一部、私見も入っています)。もちろん、年齢や持病のあるなしでも変わってきますので、あくまで参考程度に留めておいて下さい。
- 経験したことがないような激しい下痢
- 便に血が混ざっている(O157もこのパターンです)
- 下痢以外に発熱、吐き気、嘔吐がある時
- 排便後にも腹痛が続く
- 同じものを食べた人も同時に下痢になった
- 症状が悪化している、もしくは改善の兆しがない
- 脱水症状(尿が少ない・出ない、口が異常に乾くなど)がある
- 海外から帰ってきたばかり
- 医療関係者や食品関係者など、他人に移す可能性が高い職種の人
感染予防は菌の種類によって様々ですが、特に夏の『腸管出血性大腸菌』と冬の『ノロウイルス』への対策が大切です。本来ならば分けて記載するべきかもしれませんが、分けて覚えると混乱すると思いますので、敢えてまとめて記載します。
- 何より手洗い!特に排便後はトイレットペーパーでカバーしていても手に菌が付着してしまいますので、神経質なぐらい手を洗いましょう。
- 家族がよく触る場所(水道の蛇口やシンク、ドアノブ、電話、パソコンのキーボード、化粧台、便座、トイレの蓋など)はしっかりアルコール消毒しましょう(ただし、ノロウイルスはアルコールでは死滅しません!)。
- スマートフォンをしっかりアルコール消毒!特に、トイレの中でスマートフォンを触った後は、徹底的に消毒して下さい。
- まな板や包丁を熱湯消毒しましょう。また、洗浄スポンジは小まめに天日干ししましょう。特にノロウイルスは熱以外ではなかなか撃退できません。
- 生野菜などはよく洗い、食肉は中心部まで十分加熱(75℃なら5分以上、85℃なら1分以上)してから食べましょう(一日寝かせたカレーやシチューは、感染対策の点ではお勧めできません)。
- 『生食用』と書いてある食品表示を当てにしない!(食品衛生法の規格基準においてノロウイルスに関する基準は設定されていません)
- 冷蔵庫の中の食品はこまめに点検し、出来るだけ早く食べるようにしましょう。
- ビルやマンションなどでは、貯水槽の清掃・点検を定期的に行いましょう。
- 発症した方がいる場合は、二次感染を防ぐためにも便に汚染された衣類などの取り扱いに十分注意しましょう。タオルは感染した方は別の物を使用して下さい。
- お風呂のお湯程度の温度では菌は死にません。感染した方は最後に入るようにして下さい。
下痢をした時の対応の基本は『脱水対策』です。ぬるめの白湯や麦茶、ほうじ茶、常温のスポーツドリンクなどを少量ずつ取りましょう。また、少しお高めですが、最近流行の経口補水液(OS1やアクアソリタといった飲み物です)などは、病院で受ける点滴に近い成分で出来ていますのでより効果的です(当院でも取り寄せることができます)。冷たいものや炭酸飲料、カフェイン入りの飲料、アルコールなど刺激が強い飲み物は厳禁です。発症してから半日~1日程度は胃腸を休めるため絶食するほうがいいですが、その後は、おかゆや煮込みうどん、野菜スープなど消化の良い食べ物で少しずつ様子をみながら慣らしていきます(「下痢が酷くなるから何も飲んだり食べたりしてません」という方もいらっしゃいますが、原則的には間違いです)。その他、下痢の時に食べていい食べ物、出来るだけ避けるべき食べ物をまとめてみました。
<下痢の時に食べてもいい物・できるだけ避ける物>
よく、「下痢止めは菌の排泄を遅らせるから使わないほうがいい」なんて言われ方をすることもありますが、これも大部分の下痢に対しては間違いです。確かに、食中毒や細菌感染で起きた発熱や血便を伴う下痢など、腸の中にある毒素や異物を早く取り除くため、安易に腸の動きを止めるべきではないケースもあります。しかし、多くの場合は、前記の通り『脱水対策』が最優先ですので、積極的に止めにいくべきです。あと、もうひとつよくある誤解が「下痢をしているから抗生物質を飲まなきゃいけない」というもの。下痢の原因の多くはウイルスなのですが、ウイルスには抗生物質は全く効果ありません。むしろ、抗生物質で下痢をしてしまうこともありますし、O-157などの場合は抗生物質で菌が壊れることによって毒素をまき散らしてしまい、ますます症状が酷くなることがあります。例外はありますが、原則的には「下痢に抗生物質は必要なし!」とお考え下さい(残念ながら、下痢の時に何も考えずに抗生物質を出す医師が多いのは事実です)。
上記はあくまでも目安です。お困りの際は、いつでもご来院下さい。