最近急激に気温が上がってきましたよね。それに伴い「何となく身体が怠いんです」という言葉を外来でよく聞くようになりました。確かに、これだけ暑くなれば仕方がない・・・では、身も蓋もないですよね(^^;) しかも、これって単に気温だけの問題ではなく『気圧』が影響することもあるんです。気象現象が人間に与える影響を研究する「生気象学」(biometeorology)という分野がありますので、今回はそのさわりの部分(というかさわり程度しか分かりませんが💦)を紹介します(以前に若手医師を対象に書いたブログを変更したものです)。
急なんですが、人の身体にはどれぐらいの空気の重さがかかっていると思いますか?答えは何と約16トン!途方もない重さに晒されているんです。気圧の変化は基本的に温度の変化によってもたらされるんですが、この計算式は難しすぎるんで省略(^_^;) とにかく、気温が高くなると空気が軽くなって低気圧になり、低温になれば空気は重くなり高気圧になります。天気が悪いというのも、原則的には変わりません。天気が悪くなるということは、簡単にいえば、高い気温で温められた海水や空気が蒸気となったり山にぶつかったりして上にあがっていき、冷たい上空で冷やされて水滴になって落ちてくる、という理屈です。そして空気が上にあがってしまったあとは、当然空気の量が少なくなるため“気圧が低い”状態になります。気圧の変化が体を圧迫するわけですから、気温が1℃変わるだけで、身体にかかる重さは大きく変動します。この変化、健常人なら身体が少し重く感じたり頭が痛くなったりする程度で大きな問題にはなりませんが、幼児や高齢者、病気の方にはかなりのダメージを与える訳です。
実際にどのような影響があるかについては、様々な報告があります。例えば寒冷前線が通過するときは体温、尿量、脈拍数、血液データが変化することが知られています。またホルモン系や神経系の緊張の変化が起こり身体全体の血管の緊張が変わるので、アレルギー反応、炎症反応が起こりやすくなります。その他、気圧が下がると、体に水分が溜まり、血管が収縮したり、血管透過性(血管内の水分が外に漏れ出ること)が亢進したり、炎症反応が強くなったりして、気象病が誘発されるとも言われています。具体的には関節リウマチ、心筋梗塞、脳梗塞、脳出血、気管支喘息、急性虫垂炎、胆石症、感冒、うつ病などですが、めまい、立ちくらみ、頭痛、倦怠感、血圧の変動、神経痛などもよく経験します。そういった変化に対応するのが御馴染みの“自律神経”なのですが、自律神経は単に気圧の変化だけを相手にしている訳ではありません。湿度や日照時間はもちろん、微妙な風向きなどの変化に対しても微調整を行っています。日本のような四季の変化の激しい場所では、自律神経は大忙しです。
最後に治療ですが・・・残念ながら、起こることは仕方がありません。これはある意味体質のようなものですし、移りゆく季節に文句をつけてもどうしようもありません。『人体は宇宙の縮図であり、体調の変化が宇宙における変化の影響を受けるのは当然である』というインドの伝統的医学アユルヴェーダの考え方は、正に言い得て妙です。ただ、『起こりやすい人』と『起こりやすい時期』は分かります。
『起こりやすい人』
- 自律神経に負担のかかっている人:更年期女性、若い女性、高齢者、冷えの酷い人、睡眠サイクルが良くない人、疲れが溜まっている人
- ヒスタミン依存性の既往のある人:花粉症、喘息、蕁麻疹
- 日照時間の低下によるもの:うつ病
- 炎症反応に依存した病態の人:膠原病関連疾患、腰痛症、変形性関節症
- 心血管系のリスクが高い人:心筋梗塞、脳梗塞、脳出血
『起こりやすい時期』
- 急激な気圧変化(特に低気圧)が起こった時:梅雨、台風
- 急激な気温低下が起こった時:11月末~12月
対処法は『自律神経を刺激しない』ことと『早めにアレルギー対策をする』です。ありきたりの内容ばかりですが、とにかくこれを「低血圧が近づく前」「気温が急激に下がる前」からはじめることがポイントです。
- 安静を心がける(光刺激や音刺激を避ける)
- アロマなどでリラックス
- 身体を冷やさない(夏場のクーラーも要注意!)
- 十分な睡眠をとる
- 自律神経訓練法(http://www.welllink.co.jp/health_info/autonomy/autonomy01.html)
- 意識してゆっくり呼吸する(最も簡単な自律神経訓練法)
- 低血圧の人:血管を収縮させる(コーヒーや紅茶、患部を冷やす、塩分をとる)
- アレルギー体質の人:早い時期から抗アレルギー薬を飲む
こう考えると、医療者は小まめに天気予報をチェックしなくちゃいけないなって思います。皆さんも小まめに天気予報をチェックして、体調不良に備えましょう!