今年のインフルエンザワクチンをめぐる状況は、例年と大きく違います。何より、こんなに政府が「ワクチンを打ちましょう!」と強調している年は、恐らく今までなかったんじゃないでしょうか。一番の理由としては、「インフルエンザと新型コロナウイルス感染症は症状が良く似ていて、同時に流行したら地域医療が混乱する」といったものだと思います。さらに、新型コロナウイルスとインフルエンザB型に同時にかかる“重複感染”を起こすと、重症化しやすいというデータもあるようです。現時点で新型コロナウイルス感染症予防に有効なワクチンはまだありませんので、有効性が確立しているインフルエンザワクチンを接種することは有効だと言えます。
ただ、「とにかく早く打ちましょう!」という流れがあるのは、ちょっと不思議な気がします。特に、リスクの高い高齢者や基礎疾患を持ったの方々を優先的に早く接種・・・正直、頭の中が「?」になります。
下の図を見て下さい。
これは、昨年9月中旬時点までの、過去5シーズンのインフルエンザ患者数の推移です。年によって多少の差はありますが、インフルエンザの流行は気温や湿度が急に下がる12月に小さな波があって、1月中旬~3月にかけて爆発的に増えるのが一般的です。
さらに、今シーズンの流行状況には、もう一つの大きな特徴があります。それは「びっくりするぐらいインフルエンザが流行っていない」ということです。厚労省のウェブサイト(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou01/houdou_00008.html)では、週ごとに感染者数を発表しているのですが、10月7日時点での報告数は、なんと昨シーズンのおよそ100分の1です。新型コロナウイルス感染症対策で皆さんがしている「マスク、手洗い、消毒」はそのままインフルエンザの予防になっています。この傾向が続けば、12月の小流行はもちろん、もしかしたら年明けの大流行まで抑え込むかもしれません。
このような状況を踏まえて、インフルエンザワクチンをいつうつのがいいのか考えてみましょう。それを考える前に、まずはインフルエンザワクチンの特徴を押さえておきますね。
まずは効果についてですが、これに関しては色々な報告があり、中には有害なのでは、といった海外の報告もあります。ただ、国立療養所三重病院から発表されたインフルエンザワクチンの効果に関する研究では「65歳未満の健康な成人では70~90%の発症予防効果があり、65歳以上でも健康な人なら約45%の発症予防、約80%の死亡を防止する効果がある」と報告しています。やはり、接種する機会があれば積極的にうつことをお勧めします。
うつタイミングに関して重要なのは、「インフルエンザワクチンをうつと、どのような経過で体内にウイルスに対しての抗体が作られるか」です。これには個人差もありますが、およそ注射をうってから①2週間後から立ち上がり、②1か月後にピークとなり、③3~5カ月後から下がり、④6カ月程度で消失します。
以上のことを考慮して、あくまで私見になりますが、今シーズンのインフルエンザワクチンをうつベストなタイミングは、「11月末~12月中旬にかけて」です。恐らく12月に大きなピークは来ませんので、1月~3月に抗体産生のピークを持っていくために、このタイミングにうつのが一番いいと考えます。
じゃあ、何故政府はインフルエンザウイルスを早めに接種するようにアナウンスしているのでしょうか?これも私見になりますが、一番の理由は「早くうたないとワクチンがなくなるから」だと思います。今シーズンは過去5年間で最大量の約6300万人分(昨シーズンは約5900万人分)のワクチン供給が予定されていますが、新型コロナウイルス感染症への恐怖から、普段接種しない人達のワクチンの需要が高まる可能性があります。65歳以上の方や基礎疾患を持った方に優先的にうっていただくための『とにかく早くうとうキャンペーン』なのではないかと思います。もちろん、新型コロナウイルスとの同時流行による医療機関の混乱を防ぐ目的もあります。さらに、インフルエンザが流行する前に十分な数のワクチンを接種することで、地域の『集団免疫』を高めることにより、感染の広がりを抑える狙いもあります。つまり、予防接種を早くうつ意味は、個人に対してのメリットではなく、医療体制の維持を含めた地域全体のメリットのためなんです。
今年は暗い話題が続いていますが、「他人に移さないため、医療機関を混乱させないために手洗い、マスク、消毒」といった、他人への思いやりに溢れた年でもあります。インフルエンザワクチンもその一つ。地域を守るために早めにうつのもよし、リスクの高い人達のために接種を控えるのもよし。皆さんも是非思いやりの輪に加わってみて下さい。