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無口なヒーロー ~『腎臓』を大切に~

研修医時代、当時ローテ―ションしていた科の指導医に聴かれたことがあります。「全ての臓器の中で、一番大切なのは何だと思う?」―― この答え、何だと思いますか?もちろん、大切じゃない臓器なんてありませんので、「これが絶対正解!」なんてものはありません。ただ、一つだけ挙げるなら、多くの先生が出す答えは『腎臓』だと思います。極論かもしれませんが、我々の行動、例えば呼吸をしたり、食事を食べたり、運動したりといった行為は、最終的に「尿を出すため」に行われているのです。「尿さえ出ていれば人は死なない!」なんて言われる先生もいらっしゃるぐらいです。

 

という訳で、今回のお題は『腎臓』です。

 

なぜ「尿を出すこと」がそれほど大事なのか?

 

「尿を出すためだけに生きているなんて」と驚かれた方もいるかもしれません。しかし、私たちの体の中を一つの『街』に例えるなら、腎臓は「超高性能な水質管理センター(下水処理場)」です。

 

私たちは毎日、食事をしてエネルギーを作り出していますが、その過程で必ず「ゴミ(老廃物)」が出ます。また、呼吸をしたり汗をかいたりすることで、体内の水分や塩分のバランスは常に変動しています。

 

もし、この水質管理センターが破綻してしまったらどうなるでしょうか? あっという間に街中(体内)にゴミが溜まり、血液は汚れ、細胞は溺れてしまいます。心臓を動かすことも、脳で考えることもできなくなってしまうのです。腎臓が24時間365日、文句も言わずに血液をろ過し、きれいにし続けてくれているからこそ、私たちは安心してご飯を食べ、元気に動き回ることができます。まさに、命の根底を支えているのが腎臓なのです

 

 

腎臓の知られざる「3つの大仕事」

 

腎臓の仕事は、単に尿を作る(ゴミを捨てる)だけではありません。実は、体の環境を一定に保つための司令塔』として、いくつもの重要な役割を兼任しています。

 

  • 血圧をコントロールする

 

腎臓は、体内の水分と塩分の量を調節することで、血圧をちょうどいい状態に保っています。さらに、血圧が下がると「レニン」というホルモンを出して血圧を上げるなど、自ら血圧のセンサーとなってコントロールしています

 

  • 血液(赤血球)を作る命令を出す

 

血を作る工場は「骨髄(骨の中)」ですが、その骨髄に向かって「今、血液が足りないから作って!」と指令を出すホルモン(エリスロポエチン)を分泌しているのは、実は腎臓です。腎臓が悪くなると、貧血(腎性貧血)になりやすくなります

 

  • 骨を強くする

 

カルシウムを骨に吸収させるには「ビタミンD」が必要ですが、このビタミンDを体に使える形(活性型)にパワーアップさせるのも腎臓の役目です

 

どうでしょうか?「ただ尿を出すだけ」だと思っていた腎臓が、実は全身の健康をコントロールするスーパースターであることがお分かりいただけたかと思います

 

問題は、腎臓が「無口な職人」だということ

 

これほど重要な腎臓ですが、皆さんに是非知っていただきたい、そして注意していただきたい特徴があります。それは、腎臓が「究極の沈黙の臓器」だということです。

 

肝臓も沈黙の臓器と呼ばれますが、腎臓も負けていません。腎臓の中には『糸球体(しきゅうたい)』という、毛細血管が毛糸の玉のように丸まった極小のフィルターが、左右合わせて約200万個もあります。このフィルターは、少しくらい傷ついても、残った糸球体たちが2倍、3倍も黙々と働き続けてくれます。

 

そのため、腎臓の機能が半分近くまで落ちてしまっても、自覚症状はほとんど出ません。「休んでもなかなかとれないだるさがある」「少し動いただけですぐに息切れがする」「漠然とした吐き気が続いている」「足のむくみがなかなか治らない」などが出たときには、すでに腎臓の寿命が最終段階に近づいている、ということも珍しくないのです

 

そして残念なことに、一度完全に壊れてしまった糸球体は、現代の医療でも元の元気な姿に再生させることはできません。だからこそ、悪くなる前に「守る」ことが何よりも大切になります

 

大切な腎臓を守るための「3つの生活習慣」

 

では、どうやってこの“無口な職人”である腎臓を守っていけばいいのでしょうか?今日からできる、簡単な3つのポイントを押さえておきましょう。

 

1.減塩、とにかく減塩!

 

塩分の摂りすぎは、腎臓のフィルターに過剰な圧力をかけ、傷つける最大の原因になります。日本の食文化は醤油や味噌、出汁など塩分が高くなりがちです。「麺類のスープは残す」「調味料は“かける”ではなく“つける”」といった小さな工夫から始めてみましょう。

 

2.適切な水分補給

 

冒頭の「尿を出す」ためにも、適切な水分が必要です。水分が足りないと血液がドロドロになり、腎臓のフィルターに負担がかかります。一気に飲むのではなく、喉が渇く前にコップ1杯の水をこまめに飲む習慣をつけましょう。(すでに心臓や腎臓の病気で水分制限がある方は、主治医の指示に従ってくださいね)。

 

3.健康診断の“微妙な”判定を無視しない

 

無口な腎臓の悲鳴をキャッチできる唯一の方法が、健康診断です。特にチェックしてほしいのは『尿蛋白(尿たんぱく)』と、血液検査の『Cr(クレアチニン)』『eGFR(イージーエフアール)』という項目です。 eGFRは、あなたの腎臓が現在何点満点中、何点レベルで働いているかを示すスコアのようなものです。「ちょっと数値が引っかかっているけど、症状がないからいいや」と放置することだけは、絶対に避けてください。

 

あなたの腎臓の「声」を一緒に聴きましょう

 

「すべての臓器の中で、一番大切なのは何だと思う?」

 

指導医の先生にそう聴かれたあの頃から年月が経ち、日々多くの患者様を診察するようになった今、私は改めてその言葉の重みを感じています。

 

腎臓は、あなたが眠っているときも、お友達とおしゃべりしているときも、一時も休まずにあなたの体を守るために「尿」を作り続けてくれています。そんな健気で、でもちょっぴり頑固で無口な相棒の健康を守れるのは、他の誰でもない、あなた自身です

 

「最近、健診受けていないな」「私の腎臓の数値ってどうなんだろう?」と気になった方は、ぜひお気軽に当院へご相談ください。血液検査や尿検査で、すぐにあなたの腎臓の「がんばり度」が分かります。特に、当院では、一般的な尿検査では分からない、初期の腎機能障害を確認する『微量アルブミン尿』の検査も行っています「健診では尿蛋白陰性と言われているけど、血圧も高いし、糖尿病の気もあるし心配」なんて方は、是非ご相談下さい。

 

大切な腎臓と一緒に、これからも長く元気に歩んでいきましょう。