今年始めに『はしか』の話題が頻繁に取り上げられていたことは、記憶に新しいと思います。幸い大流行とはなりませんでしたが、実は、注意しなければいけないのはこれからなんです。というのも、はしかは現在でもヨーロッパを中心として世界中で流行しているのです。コロナ禍が明けてから初めてのゴールデンウィーク、海外旅行に行かれる方も多いかと思います。改めて、はしかのことをしっかり理解しておく必要があります。

このタイミングで、地元の情報誌『SAKURA』から、はしかについての取材を受けました。地元の情報誌って良いですよね~。この地域のトピックス、お祭り、新しいお店情報等、地域の皆様と共有できる情報満載で、地域の「空気感」を感じることができます。地域医療を担うプライマリケア医にとっては必読の雑誌です。・・・って、話が逸れました(;^_^A 取材していただいた内容を、質問内容にそってまとめましたのでご参照下さい。

Q1.麻疹はどのような病気でしょうか。特徴的な事項を教えて下さい。

麻疹(はしか)は、麻疹ウイルスによって起きる感染症です。麻疹ウイルスは極めて強い感染力を持っており、感染経路は空気感染の他、飛沫や接触感染など様々です。麻疹の患者さんの咳やくしゃみなどのしぶきに含まれる麻疹ウイルスは、感染力を維持したままで1時間以上も空気中を漂い続けることがあります。免疫がない集団に1人の発症者がいた場合、12~14人程度に感染するとされています。これはインフルエンザの約10倍です。また、感染した人の90%以上が発症してしまうのも厄介なところです

Q2.麻疹にかかるとどのような症状がみられますか。

10~12日の潜伏期間を経て、熱・鼻水・痰・咳など、いわゆる風邪と同じ症状で始まります。一般的にはしかでみられる湿疹は、この段階で認められませんので、この時期に麻疹の診断をすることも困難です。ただ、鼻水や痰の中には麻疹ウイルスが含まれているので、うつる可能性が最も高い時期です。このような症状が2~3日続いた後に一度熱が下がり始めますが、再び40℃近くまで上昇するとともに、全身に小さな赤いプツプツが出てきます。典型的には顔や耳の後ろから始まり、胸・背中・お腹といった体の中心から手足へと広がっていきます。湿疹どうしがくっついて色々なタイプの湿疹になるのも特徴です。厄介なことに、解熱後もしばらく感染力が維持されます

Q3.どのような治療が行われますか。

残念ながらインフルエンザのような抗ウイルス薬はありませんので、症状に合わせて脱水予防の点滴や、解熱剤、咳止め等で症状の緩和を行います。また、別の細菌感染による肺炎や中耳炎を合併した場合は抗菌薬の投与が行われ、重症化した場合は入院して酸素投与などの呼吸器管理が必要になるケースもあります。

Q4.考えられる合併症を教えて下さい。

通常の風邪に比べてかかっている間とその後しばらくは免疫力が落ちているので中耳炎や肺炎を発症することがあります。また、頻度は少ないのですが、脳炎や心筋炎といった命に関わる病気になることもあり注意が必要です。 さらに、ごく稀ではありますが、感染から約10年後に記憶障害や痙攣といった症状から始まる「亜急性硬化性全脳炎」という病気を発症することもあります。

Q5.予防方法を教えて下さい。また、ワクチンを検討すべき人・年齢があれば教えて下さい。

接触感染、飛沫感染に加え、空気感染もしますので、手洗いやマスクのみでは予防ができません。ワクチンによる予防が最大にして唯一の予防法です。ワクチンは接種後2週間後から効いてきますが、はしか患者さんと接触後72時間以内にワクチンを接種することで、発症を予防できる可能性があります。ワクチン1回接種による免疫獲得率は93~95%以上、2回接種による免疫獲得率は97~99%以上と報告されています。一見1回接種でも十分なように感じますが、20人に1人以上免疫を持っていないのは、桁外れの感染力を持つ麻疹に対しては不十分です。また、その効果は20年程度で減弱してしまいます。そのため、予防接種を一回しか受けておらず、かつワクチンの効果が落ちている1972年10月1日~1990年4月1日生まれの人が特に注意が必要です

Q6.かかりやすい人、注意した方がよい人はどのような人ですか。

ワクチンの普及によりここ数十年は大きな流行が少なくなった結果、麻疹に罹ったことがない人や子供の時に一回しか予防接種を受けていない人が大人になって感染する例が増えてきています。また、妊娠中は麻疹に罹りやすく、死亡率も上昇すると言われていますし、流産や早産のリスクも高まると報告されています。もちろん、免疫力が落ちているご高齢の方や抗がん剤や免疫抑制剤などを使っている方も注意が必要です。

Q7.麻疹が疑われる場合、どのように医療機関を受診したらよいでしょうか。

受診の際には、まず受け入れ可能かどうかを電話で確認して下さい。受け入れ可能の場合は「はしかの患者さんと接触した可能性があり、いつ頃からどんな症状がある。」と伝えて下さい。そして、これが最も大切なのですが、受診に際してはバスや電車など公共交通機関の利用は避け、人が集中する場所(スーパー、コンビニ等)には極力立ち寄らないようにして下さい

より詳細な内容に関しては、こちらのページをご覧下さい ⇒ Medical Terrace 『麻しん(はしか)』

はしか以外にも「風疹」「破傷風」「百日咳」「マラリア」「デング熱」など、海外旅行では気を付けなければいけない感染症が沢山あります。とはいえ、せっかくのゴールデンウィーク!目一杯楽しんで、ほどほどに気を付けて、帰国後に心配なことがあれば、すぐに医療機関にご相談下さいね。