最近外来で『血圧サージ』について質問されることが多くあります。どうやらNHKの『ためしてガッテン』『NHKスペシャル』など、影響力の強い番組で立て続けに放送されていたようですね。最初はピンとこなかったのですが、我々の世界で15年程前から言われている『モーニングサージ』のことのようです。以前から心血管系リスクとして重要視されていた概念ですので、メディアで話題になることは非常に有難いです。

 

血圧は 1日の間で、上がったり下がったりを繰り返しています。普通、寝ている間の血圧は下がっていますが、明け方近くなると、身体活動を活発にする交感神経が働きだしたり、血糖値を上げたり血管を絞めたりするコルチゾールというホルモンが分泌されますので、正常の場合も血圧は上がってきます。『早朝高血圧』という言葉がありますが、これは朝の血圧が135/85mmHgを超えている時を言います。『早朝高血圧』には、夜あまり血圧が下がらないままなだらかに血圧が上昇する『ノンディッパー型』と、朝方に急激に血圧が上昇する『ディパー型』に分けられますが、後者の『ディッパー型』が、今話題の『モーニングサージ(高血圧サージ)』のことです。

 

 

『ノンディッパー型』と『ディッパー型』でどちらが心血管系疾患の発症リスクが高くなると思いますか?「今話題にもなっているし、急激に上がるのが危険そうだからディッパー型!」なんて思われるかもしれませんが、実際は『ノンディッパー型』のほうが危険です

 

『ノンディパー型』の早朝高血圧の原因として糖尿病・心不全・腎臓障害・自律神経障害・睡眠時無呼吸症などが挙げられます。早朝高血圧は年齢とともにこのタイプが増加して脳血管疾患や虚血性心疾患のリスクが高くなっていきます。『ディパー型』の早朝高血圧、つまりモーニングサージの原因としては、夜の飲酒朝の慌ただしさ前日服用した降圧薬の効果が弱くなることなどが挙げられます。若い世代でもみられることがありますが、急な血圧上昇に対して心臓や血管が動脈硬化などで適切に反応できなくなることも原因になります。つまり、「加齢による血圧上昇の始まり」の場合もある訳です

 

気付かないうちにモーニングサージが頻発すると臓器や血管の老化が進み、脳卒中、心筋梗塞、認知症などのリスクが高くなります。高血圧のある人がモーニングサージを頻発させるとさらに危険!2014年に発表された21,000人の方を対象とした研究報告では、何もない人に比べての心臓病・脳卒中の発症リスクは、高血圧の人は1.42倍、モーニングサージがある人は2.47倍、高血圧でモーニングサージがある人は3.92倍になると報告されています

 

 

また、モーニングサージは認知症の発症リスクを2.27倍高めるという、国内からの報告もあります。

 

危険性が確認できたところで、貴方自身のリスクを評価してみましょう。1~8の質問のあてはまる方の点数を合計して下さい。

 

<モーニングサージの危険度リスク>

1. あなたの年齢は? (65歳未満=0点 65歳以上=1点)
2. あなたのBMIは?※ (25未満=0点 25以上=1点)
3. 深夜にトイレに行く? (0回=0点 1回=1点 2回以上=2点)
4. 日中眠くなることは? (あまりない=0点 よくある=1点)
5. 味の濃いものが好き? (好きじゃない=0点 好き=1点 大好き=2点)
6. 果物を食べる? (よく食べる=0点 あまり食べない=1点)
7. お酒を飲む習慣は?※ (ない=0点 ある=1点)
8. タバコを吸う? (吸わない=0点 吸う=1点)

3点以下:低リスク  4~5点:中等度リスク  6点以上:高リスク

※BMI=体重kg ÷ (身長m)2

※お酒を飲む習慣は1日1合以上を週4日以上の場合

1合の目安は
• ビール 500ml(中びん1本)
• 日本酒 180ml(1合)
• ウイスキー 60ml(ダブル1杯)
• 焼酎 110ml(0.6合)

 

 

対処法の基本は、高血圧や生活習慣病対策。タバコや肥満、運動不足解消に努めることが最優先です。減塩食、深夜の食事・飲酒を極力控える、有酸素運動をするなど、お医者さんが病院で言ういつものセリフですね(笑)。それ以外にも、

 

• ベルトをゆるくする。
• 冬場はスリッパをはく。
• 深呼吸をする。
• 寒い朝は急な運動やタバコはひかえる。
• 室内外の寒暖差を少なくする。

 

なんかがお勧めです。また、『ためしてガッテン』では、『タオルグリップ法』というのをお勧めしていました。勉強になりますね。